この記事の要点
- 2つの安全認証。EN 17092 の AAA/AA/A はジャケット全体のクラス、EN 1621 の Level 1/Level 2 はプロテクター単体の指標。
- フィットは快適性ではなく安全性能の一部。プロテクターが動かないサイズを選ぶ。
- 日本の気候で着続けられることも選定基準に入れる。
- 迷ったら「用途 → 規格 → フィット → 季節」の順で絞り込む。
バイクに乗るとき、ヘルメットと同じくらい慎重に選びたいのがライディングジャケットです。ところが売り場に立つとデザイン以外、安全性を考えたとき「CE」「Level 2」等といった表示が並び、どれを基準にすればよいのか分からなくなります。
タグを裏返して見比べたものの、結局は見た目で決めてしまった。そんな経験はありませんか。判断を難しくしているのは、これらの表示がそれぞれ違うものを測っている点です。ここでは欧州の保護規格を踏まえ、選ぶ判断の順序から整理していきます。
1. バイク用プロテクタージャケットが備えるのは「衝撃」だけではない
転倒時のリスクは衝撃・摩耗・破断の三つに分かれ、プロテクターが受け持つのはそのうちの一つにすぎません。
ライディングジャケットとプロテクターインナーの役割
「バイク用プロテクタージャケット」と呼ばれるものには、大きく二つの系統があります。ひとつはライディングジャケット。肩や肘にプロテクターを備えたうえで、表地そのものにも耐摩耗性や引裂き強度を持たせたものです。
もうひとつはプロテクターインナー。メッシュ素材にプロテクターを固定し、上から別のアウターを着ることを前提にした構成です。硬いプロテクターが数多く付いていても、それだけで路面を滑る「滑走」に耐えられるとはかぎりません。
逆に生地が丈夫でも、衝撃吸収材が適切な位置になければ打撃への備えは不十分です。まずは「一着で成立するのか」を確かめてください。
高品質なバイクウェアは硬さや重さでは決まらない
転倒時には、身体を路面に打ちつける衝撃、滑走による摩耗、縫い目や生地が裂けてプロテクション機能を失う破断が同時に起こります。EU の PPE 規則でも、取り外し可能なプロテクターを含む防護衣料は「組み合わせ」として評価する考え方が示されています。
また、重厚なジャケットが最良とも限りません。重く硬すぎれば夏場に着なくなり、長距離では疲労にもつながります。買った当初は気に入っていたのに、暑い日はつい薄手の上着で出てしまう。そんな一着が、クローゼットに眠っていないでしょうか。
高品質なバイクウェアとは、自分の速度域・走行時間・季節に対して、十分なプロテクション性能を無理なく使い続けられるものです。着られなかったジャケットの性能は、ゼロのままです。
2. 安全性能は「ジャケットのクラス」と「プロテクターのレベル」の組み合わせ
EN 17092 は衣料全体を、EN 1621 はプロテクター部品を評価する規格であり、両者は置き換えられません。
EN 17092 の AAA・AA・A はジャケット全体の保護クラス
欧州ではモーターサイクル用防護衣料の基準として EN 17092 シリーズが用いられており、2026年8月時点の EU 整合規格一覧にも AAA、AA、A、B、C の各規格が掲載されています。まず押さえたいのは、AAA・AA・A はプロテクター単体の強さではなく、衣料全体のクラスだということです。
一般に AAA が最も高い保護要求を持ち、AA、A の順にプロテクション性能と動きやすさのバランスが変わります。AAA と AA では衝撃プロテクターに加えて、生地の耐摩耗性や縫製強度までが評価されます。Class A は比較的軽量で、市街地でも使いやすい設計が多くなります。
Class B は衝撃プロテクターを含まない衣料、Class C はプロテクターを正しい位置に保持するためのウェアです。いずれも「A より性能が低い完成品」ではなく、評価している範囲そのものが違うのです。
規格の表示を実際の製品で確かめたいときに参照しやすい一着です。AVRO 5 TEX JACKET は EN 17092 の Class A 認証を商品情報に明記しているテキスタイルジャケットにあたります。
EN 1621 の Level 1・Level 2 はプロテクター単体の指標
一方、プロテクター部品側の規格が EN 1621 です。肩・肘・膝・腰などの四肢用が EN 1621-1、背中が EN 1621-2、胸部が EN 1621-3、エアバッグなどのインフレータブル式が EN 1621-4 と、部位ごとに分かれています。
ここに表示される Level 1/Level 2 は、ジャケットの AAA/AA/A とはまったく別の指標です。衝撃試験で身体側へ伝わる力が小さいほど、高いプロテクション性能と評価されます。
SATRA の解説(出典文末)では、EN 1621-1 の四肢用プロテクターは平均最大伝達力 35kN 未満であることが合格の条件とされています。各パートには Level 1 と Level 2 の二段階があり、Level 2 のほうが許容される伝達力は小さくなります。
ただし Level 2 が常に正解とはかぎりません。厚みや柔軟性、通気性も使いやすさを左右します。ジャケットのクラスと、各プロテクターのレベルは別々に確認する。これが比較の基本動作です。
肩・肘の先にある背中と胸部をどう埋めるか
多くのライディングジャケットでは肩・肘プロテクターが標準装備ですが、背中は薄いフォーム材のみ、あるいは別売りという場合があります。「背中に何か入っているか」ではなく、そのパーツが EN 1621-2 の認証を持つバックプロテクターなのかを確認しましょう。
背中の保護を、規格の裏づけがある形で確保したいときの選択肢です。WAVE 13 D1 AIR は Dainese のハーネス式バックプロテクターで、EN 1621-2 の Level 2 に適合することを明記しています。ジャケットに依存せず単体で着けられるため、複数のジャケットを使い分けても保護水準を保てます。
保護範囲をさらにレベルアップさせたいなら、胸部プロテクターやエアバッグも候補になります。
エアバッグを段階的に導入したいときの構成です。SMART AIR は Dainese の D-air テクノロジーを用いたウェアラブルエアバッグで、車体側との接続を必要としません。ライディングジャケットの上に重ねても、インナーとして内側に着ても使えます。
3. フィット感は快適性ではなく、安全性能の一部
プロテクターが正しい位置にとどまらなければ、規格上の性能はそのまま身体に届きません。
試着は立ち姿勢ではなく、乗車姿勢で確認する
店頭ではぴったりだったのに、走り出すと袖が短い。心当たりのある方は、次の試着で腕の位置を変えてみてください。バイクでは腕を前に出し、肘を曲げ、背中がわずかに丸くなるため、直立時とは生地の引っ張られ方が変わります。
試着では両腕をハンドル位置まで上げ、肘を曲げた状態で、首が引かれないか、肩が突っ張らないか、袖口が手首から離れないかを確認します。立って楽なサイズが、走行姿勢では袖丈も着丈も足りないことがあります。
プロテクターが身体からずれないことを最優先する
サイズ選びで最も重要なのは、肩・肘のプロテクターが狙った位置から大きく動かないことです。全体が大きすぎると、転倒した瞬間にプロテクターが外側へ逃げ、守りたい場所から外れかねません。
肘を曲げた状態で、プロテクターが肘関節を自然に覆っているか。試着したまま手で動かして確かめるのも有効です。なお調整ベルトは微調整のためのもので、「大きいサイズを締めればよい」とはなりません。
日本向けのサイズ選びは「身長」だけで決めない
海外ブランドのバイクウェアでは、同じ胸囲でも袖丈・肩幅・胴の長さが日本人の体型と合わないことがあります。アジアンフィットを用意する製品もあるため、サイズ表は特に胸囲を含めることを推奨しており、ウエスト、袖丈、可能なら肩幅や着丈まで確認しましょう。
冬用インナーを想定した試着も大切ですが、大きすぎるサイズを選ぶとインナーを着ない時期にプロテクターが動きやすくなります。通年で使うなら、大きめを選ぶより着脱式ライナー、伸縮素材、腕・腰のアジャスターが充実したモデルの方が確実です。
4. 日本の気候と用途から、実際に着続けられる一着を絞る
日本の四季で無理なく着られるかどうかは、規格表示と同じ重みを持つ選定基準です。
夏は通気性とプロテクション性能を別々に確認する
炎天下の信号待ちで、走り出す一瞬だけを待っていた。日本の夏を走る人には、おなじみの時間かもしれません。日本の夏は湿度が高く、渋滞の多い市街地では走行風が入らない時間も長くなります。
夏用のジャケットでは「薄いかどうか」ではなく、メッシュパネルの配置、ベンチレーション、裏地の肌離れ、プロテクター自体の通気性まで見たいところです。
ただし「メッシュ=安全性能が低い」「レザー=常に安全」と単純化しないでください。重要なのは、その製品がどの保護クラスに適合し、摩耗しやすい肩・肘にどの素材や補強を使っているかです。
真夏の街乗りが中心なら、通気性に優れた一着を確実に着る方が現実的です。AIR FRAME 3 TEX JACKET は Dainese の夏向けメッシュジャケットで、脱着式の防風ライナーを備えるため、秋口の気温低下にも一着で対応できます。
春秋・冬・雨天はレイヤリングと防水構造で考える
気温が穏やかな春と秋は選択肢が最も広がります。高速道路を含むツーリングから街乗りまで一着でこなしたいなら、EN 17092 の ,AA クラスがバランスを検討する目安になります。まず規格で水準を絞り、そのなかから着心地を比較すれば、価格だけに引きずられません。A クラス でも十分安全にお使い頂けます。
冬は中綿の厚さが答えではありません。走行風による冷却が大きいため、防風性の高いアウターと保温レイヤーを組み合わせる方が温度調節しやすくなります。雨天走行が多いなら、防水メンブレンがアウターにラミネートされているのか、独立した防水ライナーなのかも確認しましょう。
季節をまたいで一着で走りたい人向けの構成です。TEMPEST 4 D-DRY JACKET は Dainese の全天候ツーリングジャケットで、D-Dry 防水メンブレンと着脱式サーマルライニングを組み合わせ、ライナーの着脱で春から冬まで守備範囲を変えられます。
用途 → 規格 → フィット → 季節 の順で決める
ここまでの内容を購入手順に落とし込むと、次の順序になります。難しく見えても、順番さえ守れば迷いません。
- どこを走るかを決める/街乗り中心か、高速道路や長距離ツーリングか。
- 本体の保護クラスを確認する/EN 17092 の AAA/AA/A のどれに適合しているか。
- プロテクターの規格と装備範囲を見る/EN 1621 の Level 1/2 を確認し、背中・胸部も検討する。
- 乗車姿勢でフィットを確認する/プロテクターがずれず、動きを妨げないか。
- 日本の季節に合わせる/夏の通気性、冬の防風・保温、雨天時の防水構造。
通勤や近距離の街乗りでは、毎回着られることが何より重要です。高速道路やロングツーリングが多いなら、より高い耐摩耗性と縫製強度を備えた AA 以上を候補に、首周りの当たり、袖のバタつき、重量まで見ます。
背中を Level 2 へ引き上げる段階的な強化も有効ですが、装備を足しすぎて窮屈になれば動きを妨げます。プロテクター選びは装備全体のバランスで考えるものです。
よくある質問
EN 17092 の AA と EN 1621 の Level 2 は何が違うのですか?
評価している対象が違います。EN 17092 の AA は衣料全体のクラスで、耐摩耗性や縫製強度を含めて総合的に評価したものです。EN 1621 の Level 2 は肩や背中に入っているプロテクター部品単体の衝撃吸収性能を示します。「AA だから Level 2」でも「Level 2 だから AA」でもなく、両方を別々に確認する必要があります。
Class C のジャケットは Class A より安全性能が低いということですか?
そう単純には言えません。Class C はプロテクターを正しい位置に保持することを目的とするウェアで、Class B は Class A 相当の耐摩耗性を持ちながら衝撃プロテクターを含まない衣料です。A・B・C は上下関係ではなく、評価している範囲が異なります。Class C は、別途 耐摩耗性のあるウェアと組み合わせて使うことが前提の場合があります。
ジャケットに付いている背中のパッドは、そのままで十分ですか?
製品によります。標準で入っているのが薄いフォーム材だけというケースもあるため、EN 1621-2 の認証を持つバックプロテクターかどうかを確認してください。多くのジャケットは背面にポケットを備えており、認証済みのインサートを後から追加できます。買い替えても水準を保ちたいなら、ハーネス式の単体バックプロテクターもあります。
エアバッグを着れば、ジャケット本体の保護クラスは気にしなくてよいですか?
いいえ。エアバッグは EN 1621-4 が対象とする追加的な装備で、ジャケット本体の耐摩耗性を代替しません。転倒後の滑走に対しては、依然として生地と縫製の強度が効いてきます。展開に必要なクリアランスも製品ごとに異なるため、メーカーが想定する組み合わせを守ることが前提です。
高品質なバイク用プロテクタージャケットは、「最も硬い」「最も高価」という一つの尺度では決まりません。必要な安全性能が明示され、自分の身体に正しく合い、走る環境に適し、毎回きちんと着用できること。この四つがそろって初めて、優れた一着になります。
EN 17092 と EN 1621 を読み分けられれば、「何となく安全そう」ではなく「自分の用途になぜ適しているのか」を説明できます。同じ売り場をこの四つの視点で歩き直すと、並んだ一着ずつの見え方が変わるはずです。
出典
- 欧州委員会「Commission Implementing Decision (EU) 2026/1279」PPE規則 (EU) 2016/425 に基づく整合規格一覧。EN 17092-2〜-6 を掲載
- SATRA Technology「EN 1621 – Motorcyclists' clothing protecting against mechanical impact」










