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モーターサイクルAGV

ヘルメットは何でできているのか?素材の歴史と現在の選択肢

公開日:2026年2月7日
執筆者:ダイネーゼAGVジャパン編集部

時は1946年、イタリア・ピエモンテ州アレッサンドリア県のヴァレンツァ。若きジーノ・アミサーノが経営する小さな工房では、自転車用のレザーサドルやヘルメットが作られていました。この地域には革を加工する靴工場が数多くあり、第二次世界大戦後のサイクリングブームも相まって、素材と情熱の土壌が整っていたのです。
1年の活動を経て、アミサーノは急速に成長していたモーターの世界に専念することを決意します。ヴェスパやランブレッタのサドルカバーの製造から始め、やがてヘルメットへと展開しました。こうして、Amisano Gino Valenzaの頭文字を取ったAGVが誕生しました。

当時、ヘルメットはまだ珍しい存在で、初期のAGVモデルはレザーを手作業で成形し、帽子作りに使われていた頭部の型を用いて製作されていました。完全な手作業であったため、創業当初は1週間に10個も完成しなかったといいます。
それでも、この小さな一歩が、数十年のうちに世界基準を打ち立てるイノベーション企業へと成長する重要な出発点となりました。

現代素材の登場:グラスファイバー

加硫繊維、つまり特殊な樹脂を含浸させ、触媒で硬化させた布素材の短い時代を経て、1954年、イタリア初となるモダン素材を用いたヘルメットが誕生しました。それが、処理工程にちなんで名付けられた「ケライズド」グラスファイバー製のAGVボウル型ヘルメットです。

AGVのグラスファイバーは、有名なスローガン「すべてを凌駕するカッパファイバー」として知られ、レザーや類似素材と比べて軽量かつ安全であることから、瞬く間に主流となりました。数年後には、ボウル型よりも保護範囲が広いジェットヘルメットが登場します。
1967年には、AGVがヨーロッパ初のフルフェイスヘルメットを発表し、世界選手権のトップライダーに提供しました。ジャコモ・アゴスティーニが最初のアンバサダーとなり、彼のトリコロールカラーのヘルメットを起点に、開発は現在まで途切れることなく続いています。

ヘルメットの衝撃吸収構造

現代のヘルメット

レザーボウルの時代には、ヘルメットを所有すること自体が贅沢であり、先見の明の象徴でもありました。しかし現在では、用途ごとに異なるヘルメットを選ぶだけでなく、使用目的に応じて素材まで使い分ける時代に到達しています。

1960年代にはグラスファイバー一択だったシェル素材も、現在では少なくとも3種類が存在します。純カーボンファイバー、複合繊維、そして高耐性熱可塑性樹脂です。素材の違いは、そのままヘルメットのタイプを示す指標にもなっています。

現在、ヘルメットの違いを生む最大の要素は、衝撃をできるだけ広い範囲に分散し、貫通を防ぐ役割を担うシェル素材です。一方で、シェルの内側にはすべてのヘルメットにEPS(発泡ポリスチレン)と呼ばれる厚い層が備わっています。
この素材は、不可逆的に圧縮されることで衝撃エネルギーを吸収します。

カーボンファイバー素材

ヘルメットの黒い金

カーボンファイバーは、最も人気が高く価値のある素材であり、他に類を見ない特性を備えています。カーボンシェルは、炭素原子からなるフィラメントと、それらを固定する役割を持つ樹脂マトリックスを結合する、非常に緻密な工程によって作られます。
この樹脂は、衝撃を受ける際に繊維が正しい方向を保つための支持、繊維の保護、そしてヘルメット形状の維持を担います。なお、2種類以上の要素で構成される素材や構造はすべて「複合材」に分類されます。エポキシ樹脂と組み合わせたカーボンファイバーもその一例で、この区分はアラミドやガラスなど、異なる繊維を示す際にも用いられます。

カーボンファイバーの最大の利点の一つは、非常に高い機械的強度、つまりさまざまな応力に対して破断せず耐えられる能力です。この特性により、薄肉でも最大限の安全性を確保でき、結果として極めて軽量なヘルメットが実現します。
カーボンは主にハイエンド製品に使用され、サーキット走行向けであることが多いものの、それに限りません。その軽さから、ロングツーリングやオフロード用ヘルメットにも最適な素材です。

レーシング用カーボンヘルメット

たとえばAGVのレーシングヘルメットは、サーキットで最大限の性能を発揮するよう設計されており、プロライダーとアマチュアの双方に同等の保護性能とパフォーマンスを提供します。
時速300kmを超えることも珍しくなく、他では考えられない負荷がかかるサーキットという極限環境では、卓越した特性を持つ素材が不可欠であり、そこで真価を発揮するのがカーボンファイバーなのです。

複合繊維

前述のとおり、繊維系シェルは本質的に複合材で作られています。ただし「複合繊維」と呼ぶ場合、100%カーボンのような単一素材ではなく、複数の繊維を組み合わせたものを指す傾向があります。その代表例がアラミド繊維です。
優れた引張強度と耐破断性を持ち、防弾チョッキなどにも使用されていますが、単体では非常に柔軟なため、カーボンやガラスなど他の繊維と組み合わせることで、最終製品に必要な剛性を与えます。

一般的に、複合繊維を組み合わせたシェルは安全性と軽量性を両立しますが、純カーボンシェルに比べると必要な厚みはやや増し、重量も若干重くなります。

これらの素材が広く使われている最大の理由は、純カーボン製に比べて価格を抑えつつ、高いレベルの製品を製造できる点にあります。このため、多くのハイグレードなスポーツ用、ツーリング用、オフロード用ヘルメットは、この構造で作られています。

最後に

最後に取り上げる素材は、多くの人がバイクの世界に足を踏み入れるきっかけとなるものです。最初のヘルメットほど象徴的な存在があるでしょうか。
そして、その最初のヘルメットが、MotoGP™で開発された最上級のカーボンモデルであった人は、きっと少数派でしょう。

ABSは、高耐性の熱可塑性樹脂で、あらゆるセグメントで最も広く使われている素材です。安全性、信頼性、耐久性に優れた製品を実現します。
各種繊維素材と比べるとやや重量はありますが、加工が容易で、シンプルな構造を可能にするという明確な利点があります。

繊維系ヘルメットとプラスチック製ヘルメットでは、製造工程の複雑さに大きな違いがあります。繊維系では、まず「閉じた」シェルを成形するための型を用い、バイザーやベンチレーションなどの開口部は高圧水流で加工します。
一方、ABSシェルは溶融した樹脂を金型に直接射出し、次工程に進める完成形のシェルを一度で成形します。

短距離から中距離の都市走行やツーリング用途では、熱可塑性樹脂ヘルメットは間違いなく良い選択です。特に、これから乗り始める人や、超軽量やレース性能を求めていない人に適しています。
また、トップモデルからエントリーモデルに至るまで、すべてのヘルメットはプロライダーによる開発の恩恵を長期的に受けています。視界の広さに関する研究といった安全性の向上から、空力性能などのパフォーマンス面まで、その成果は反映されています。

カーボン、アラミド繊維、グラスファイバー、そして熱可塑性樹脂。それぞれの素材には明確な特性と存在理由があり、用途と密接に結び付いています。
時速300kmの壁を破るためにサーキットへ向かう人にも、毎日スクーターで自宅と職場を往復する人にも、ニーズに最適な素材で作られた、理想的なヘルメットが必ず存在します。

ダイネーゼAGVジャパン編集部のアバター

ダイネーゼAGVジャパン編集部

ダイネーゼAGVジャパン編集部は、イタリア発のモーターサイクルウェアブランド「Dainese(ダイネーゼ)」およびヘルメットブランド「AGV(エージーブイ)」の日本正規輸入元として、製品情報・アスリートのインタビュー・ブランドの今を発信する編集チーム。 ビギナーからエキスパートまで、ライダーの安全性を最優先にした情報提供を行っています。

2026年2月7日公開
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