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ストーリーズ

トロイ・コーサーが語る「正しい準備があれば、無敵だと感じられる」――SBK王者の思考と安全哲学

公開日:2026年2月7日
執筆者:ダイネーゼAGVジャパン編集部

彼はワールドスーパーバイク選手権で2度のタイトルを獲得し、語り尽くせないほどのエピソードを持っています。1971年生まれで、オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州の都市ウォロンゴン出身です。物心ついた頃からバイクに乗り続けてきたトロイ・コーサーは、とても気さくな人物で、ダートトラックからモトクロスまで幅広い経験を積んできた、
昔気質のプロフェッショナルレーサーです。

彼の国際キャリアは1992年に始まりました。SBK世界選手権への参戦は、シーズン終盤の2戦のみで、母国オーストラリアのフィリップアイランドと、ニュージーランドのマンフィールドでした。1993年は国内レースのみに参戦し、ナショナルチャンピオンを獲得します。
1994年は、優勝を果たしたアメリカ選手権と、ヨーロッパでの数戦のワイルドカード参戦を両立しました。そこで初の大きな結果を残し、ムジェロで表彰台、ドニントン、そして最終戦フィリップアイランドでも表彰台に立ちました。
出場はわずか3ラウンドでしたが、総合11位に入っています。

トロイ・コーサーの選手生活

1995年、ドゥカティからフル参戦のSBK世界選手権に招かれ、シーズンを総合2位、3勝という素晴らしい成績で終えます。1996年もドゥカティ916を駆り、ドニントン、ブルノ、アルバセテでの3度のダブルウインを含む活躍で世界チャンピオンに輝きました。
さらに単独優勝1回と、多くの表彰台を獲得しています。1997年から1999年にかけても勝利と表彰台を重ね、選手権では3年連続で総合3位となりました。

2000年には、まったく新しいRSVミッレとともにアプリリアへ移籍。2002年には、マシンの準備が間に合わなかったペトロナス・チームと契約したため、1年間の空白を経験します。2005年にはスズキへ移り、2度目の世界選手権タイトルを獲得し、低迷期があっても実力は失われないことを証明しました。
その後はヤマハ、BMWを経て、2011年シーズン終了とともに現役を引退しました。

トロイ・コーサーのインタビュー写真

現役時代のレース哲学

現在もトロイ・コーサーは、かつてと同じようにモーターサイクル中心の人生を送っています。今のプロジェクトは、オランダに本部を置くライディングスクール「Racing School Europe」です。初心者からプロを目指すライダーまで、あらゆるレベルをサポートしています。
2024年のトラック活動では、1996年当時と同様にDaineseとAGVが彼をサポートしています。長年の協力関係にある私たちは、半日をともに過ごし、さまざまな話題について語り合う機会を得ました。

レース中の思考

まずは、テレビでレースを見ていると誰もが抱く疑問から始めましょう。時速300km、あるいはそれ以上で走っているとき、プロライダーの頭の中では何が起きているのでしょうか。どうやって平常心を保つのですか。

実は、ほとんど何も考えていません。本物のプロライダーとして段階を踏んでそこにたどり着いていれば、体がすでに何をすべきか分かっています。私はいつも、筋肉には「記憶」があると言っています。何年、何年もかけて動きを体に染み込ませ、自分のものにしていれば、すべてが自動的に出てくるのです。
あとは、周囲の状況や他のライダーがいるかどうかといった、その場の状況に対応するだけです。

馬鹿げて聞こえるかもしれませんが、正しい準備があれば、完全にリラックスした状態でいられますし、守られていると感じることは確実に助けになります。たとえば仮の話として、ヘルメットなしでバイクに乗ろうとしたら、安全だとは感じられず、歩くような速度以上では走れないでしょう。
これはグローブやブーツ、その他すべての装備にも同じことが言えます。今では、私はチェストプロテクターなしでは本当に乗れません。ないと何かが欠けているように感じます。慣れてしまって、欠かせないものだと思っています。

レース中、自分が負っているリスクについて考えることはありますか。恐怖を感じることはないのでしょうか。

いいえ、レースのリスクについて考えることはありません。少なくとも、走っている最中は考えません。通常の状況では、転ばないことを考えるのではなく、自分のすべてを出し切り、得意なことに集中する必要があります。そうでなければ、結果は出ません。

恐怖について語られることはありますが、私はレース中に恐怖を感じたことはありません。サーキットに入り、集中して、レースをするだけです。一方で、ヒヤッとする瞬間があるのは事実です。私たちは無謀ではありません。
ただ、私にとって恐怖とは別のものです。それは未知のことに踏み込むとき、何をしているのか分からないまま危険なことをするとき、あるいは十分に準備ができていないときに感じるものです。その意味でも、先ほど言ったように装備は不可欠です。
守られていると感じることで自信が生まれ、ほとんど無敵のような感覚になります。

バイクウェアの進化

ウェアの話が出ましたが、30年以上前にキャリアを始めた頃と比べて、どのように進化しましたか。

多くの面で、想像以上の進化がありました。たとえばスーツのレザーの厚みや、縫製です。些細なことに思えるかもしれませんが、今のスーツやグローブは、転倒しても縫い目が裂けることはありません。昔は、そういうことが起きていました。
素材も大きく進化しています。その結果、従来型のプラスチック製プロテクターを含め、軽量でエルゴノミクスに優れ、しかもはるかに高い効果を持つようになりました。とりわけバックプロテクターがそうです。

ヘルメットも大きく進歩しました。私は過去において、実はかなり運が良かったと思います。大きな頭部への衝撃はあまり受けていませんでしたが、肘や膝、足首、手といった部分では衝撃を受けることが多かったですね。
ほとんどの転倒で、自分の足で立ち上がってコースを離れることができました。それは、すべてがきちんと機能していたということです。

私がいつも言っているのはこうです。もし自分の頭の価値が5ドルだと思うなら、5ドルのヘルメットを買えばいい。ただし、これはもちろんすべての装備に当てはまります。最新で高品質な製品を選ぶべきです。自分の身を守ることにお金を惜しむのは、愚かなことです。

では、バイク用エアバッグについてはどう思いますか。

幸いなことに、作動させた回数は多くありません。最初に試したのは、デモンストレーション用のロードジャケットでした。静止状態での作動は、とても奇妙な感覚でしたね。ただ、サーキットでスーツが作動したときは、その瞬間にはまったく気づきません。
すべてが終わって立ち上がったときに、初めて膨張を感じるのです。これもまた、信じられないほどの進歩です。

最初に話を聞いたときは、正直に言って懐疑的でした。動きを妨げるのではないか、きちんと作動させるのは不可能ではないかと心配していたのです。でも、実際に使ってみて考えが変わりました。開発は速く、効果的でした。
今では、非常に完成度の高い製品です。サーキットに入るたび、必ず電源が入っているか確認します。これなしでは走れません。Dainese D-air®システムは非常によく調整されていて、どこを改良できるのか思いつかないほどです。
強いて言えば、脚や膝といった下半身への保護を広げることくらいでしょう。現時点では、そこはカバーされていません。

若いライダーに向けたメッセージ

若いファンやライダーと接する機会も多いと思いますが、彼らがこのスポーツ、特にプロテクションの世界に向き合う姿勢について、どんな印象を持っていますか。

私の世代や、さらに年上のライダーとは、まったく違う捉え方をしています。新しい世代は、最初から最新のプロテクターがある世界で育っています。それがないという発想自体が、彼らにはあり得ないのです。今の若者は、自然に最高のプロテクターを求めます。
市場で手に入る最高の装備を身につけることが、素晴らしいことだと考えています。とても前向きな状況だと思います。

トロイ・コーサーのインタビュー写真

全体的に、すべてがよりプロフェッショナルになっています。現代化によって、モーターサイクルレースの本質から少し離れた部分もあると思いますが、先ほど言ったように、安全への意識といったポジティブな側面ももたらしました。
また、準備全般、特にフィジカルトレーニングへの取り組みが格段に増えています。今では、誰もがトレーニングをしていますし、そうでなければ遅れを取ってしまいます。正直に言うと、私が現役だった頃は、トレーニングはしていませんでした。
バイクに乗り、空いた時間には体を動かすようにはしていましたが、フィジカルトレーニングやジムの話など、聞いたこともなかったのです。

Racing School Europeの紹介

現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

Racing School Europeは、単なるサーキットライディングの学校ではありません。安全教育も重要な柱です。私たちは、バイクのあらゆる側面、そしてモーターサイクルの世界全体について理解を深める手助けをしています。
25年のキャリアを終え、レースの世界から一歩引いて外側から見るようになったときは、不思議な感覚でしたが、やがて慣れました。今では、これが私の日常です。初心者からレースに真剣に取り組むセミプロまで、レベルはさまざまですし、年齢も子どもから、まだ情熱を失っていない年配の方まで幅広いです。
私はこの仕事が気に入っています。

ダイネーゼ本社での訪問の締めくくりに、SBK世界王者に2度輝いたトロイ・コーサーはオフィスを回り、社員全員に一緒に写真を撮ろうと声をかけます。彼はリラックスし、ここにいられることを楽しんでいる様子です。普通はチャンピオンと写真を撮りたがるのは社員のほうだと指摘されると、彼は笑顔でウインクしました。

ダイネーゼAGVジャパン編集部のアバター

ダイネーゼAGVジャパン編集部

ダイネーゼAGVジャパン編集部は、イタリア発のモーターサイクルウェアブランド「Dainese(ダイネーゼ)」およびヘルメットブランド「AGV(エージーブイ)」の日本正規輸入元として、製品情報・アスリートのインタビュー・ブランドの今を発信する編集チーム。 ビギナーからエキスパートまで、ライダーの安全性を最優先にした情報提供を行っています。

2026年2月7日公開
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