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モーターサイクルAGV

バイク用ヘルメットにスポイラーが付く理由とは?空力性能がもたらす安定性と速さ

公開日:2026年2月7日
執筆者:ダイネーゼAGVジャパン編集部

保護性能と軽さ。新しいレーシングヘルメットを購入する際に何が重要かとバイクライダーに尋ねれば、
最も多い答えはこの2点でしょう。
だからこそ、過去50年にわたりヘルメットメーカーは、この2つの要素に開発の力を注いできました。

1970年代初頭、ジャコモ・アゴスティーニは、ベルギーの高速サーキットであるスパで初めてフルフェイスヘルメットをテストしました。
伝説によれば、新しいヘルメットでの最初のラップ中、250km/hで伏せた姿勢からブレーキングのために上体を起こした瞬間、チンガードとバイザーが顔に強く押し付けられたといいます。
そのためアゴはピットに戻り、レースでは二度とフルフェイスヘルメットは被らないと宣言しました。
幸いにも彼は考えを改め、AGVと協力して高速域でも快適で安定したX3000ヘルメットを開発しました。
今では、最小排気量のバイクであっても、オープンフェイスやいわゆる「どんぶり型」ヘルメットでレースをするなど誰も考えません。

保護性能と軽さはヘルメット選びの基本条件ですが、それだけではありません。
この10年ほどで競技がよりプロフェッショナル化し、あらゆる種類のバイクでライダーが極限の走りを見せるようになると、メーカーはヘルメットの小型化を進めると同時に、
かつてはそれほど重要視されていなかった空力性能といった細部にも注目するようになりました。

ジャコモ・アゴスティーニのAGV X3000

ジャコモ・アゴスティーニのAGV X3000

現代のレーシングヘルメットには、衝撃から頭部を守り、首や頭に余計な負担をかけず、
さらに空気を完璧に切り裂く性能が求められます。
高速走行中に伏せた姿勢から起き上がっても、ヘルメットは顔の上で安定していなければなりません。
アゴスティーニの最初のヘルメットで起きた問題は、内部形状が不十分で、頭上で不安定になったことでした。
しかし当時すでに、高速域では空気を切る能力が最重要であることは明らかでした。
空気を切れないヘルメットほど空力性能は低く、スパで彼が体験したような好ましくない現象が強く現れるのです。

バイク用ヘルメットの重量:静的重量と動的重量

軽さについて語る際には、静的重量と動的重量の違いを明確にする必要があります。
静的重量は、一般的なはかりで測定したり、店頭で手に取ったりすれば簡単に分かります。
一方、動的重量は、設計段階で行われる適切な空力計算、
つまり空気という流体の中で物体がどのように振る舞うかに大きく左右されます。

そのため、動的重量と空力性能は密接に関係しており、
どちらもヘルメットのシルエットと空気の切り方によって影響を受けます。
AGVの目標は、想定される走行速度において、
ヘルメットがライダーの頭を下に押したり、逆に持ち上げたりしない、
動的重量がニュートラルな製品を実現することです。

揚力とダウンフォース――F1だけの話ではない

流体の中に置かれたあらゆる物体は、その流体から力を受けます。
空気の流れを考えると、その力は揚力と抗力に分けられます。
揚力は飛行機を空に浮かせる力で、
簡単に言えば、運動中に物体を上へ押し上げる力です。
翼を逆さにすると、この揚力はダウンフォースとなり、
物体を地面に押し付ける方向に働きます。
1970年代以降、レーシングカーがさまざまな空力パーツを追加して最適化してきたのはこのためで、
近年ではMotoGP™マシンにも同様の考え方が取り入れられています。

一方、抗力はその名の通り運動を妨げる力で、
スパでアゴスティーニのヘルメットを顔に押し付けた原因でもあります。
抗力は揚力やダウンフォースと異なり、
常に進行方向と逆向きに作用するため、
スピードを落とすレーサー最大の敵です。

分かりやすい例を挙げましょう。
車に乗っているとき、窓から手を外に出してみてください。
時速40kmほどでも、空気が手に及ぼす力を感じ、
手の向きを変えるとその力が変化するのが分かります。
ある向きでは手が下に押され、逆の向きでは上に持ち上げられ、
どちらの場合でも進行方向に対する抵抗を感じるはずです。

風洞実験中のAGV Pista GP

風洞実験中のAGV Pista GP

ライダーの頭部周辺を流れる空気の特性上、
突起物のない滑らかなヘルメットでも、いずれは持ち上がろうとします。
空気の流速が速いほど、ヘルメット上方や後方の圧力は低下し、
結果として不安定になります。
モデルによっては、100km/h程度からこの現象が現れるものもあります。
ただし、空力的に優れた防風性能を持つバイクでは、この影響は小さくなります。

MotoGP™マシンで走行する場合、
それはバイクの各部品やすべてのプロテクション装備にとって最も過酷な条件を意味します。
その状況下では、装備がライダーの動きを妨げたり、
負担になったりしてはなりません。
ウェアは可能な限り「ニュートラル」で、
着用していることを意識させない自然なフィット感が必要です。
そのため、前述したヘルメットのリフト現象を極力抑える必要があり、
私たちはスポーツカーやレーシングカーと同様の技術を用いて、
ヘルメットにスポイラーを設計・装着しました。
レーシングヘルメットでは、クルマと同じく、
ダウンフォース、より正確にはリフトを可能な限り抑えることが重視されます。

AGV Pista GP RR――空気を制するために設計

2012年、この研究の成果として誕生したのがAGV Pista GPです。
これは、風洞実験によって開発された初の現代的ヘルメットであり、大きな転換点となりました。
それから年月を経て、Pista GPは第3世代へと進化し、
Pista GP RRと名付けられました。
これはMotoGP™のプロライダーが実際に着用する、
これまでに開発された中で最も先進的なモーターサイクル用ヘルメットです。
Pista GP RRは、AGVレーシングヘルメットの最新進化形であり、
空力性能の重要性を最もよく体現しています。

独特なシェル形状と、現行モデルではプロ・スポイラーと呼ばれるリアスポイラーの追加により、
リフト効果を大幅に抑えることに成功しました。
その結果、160km/h(多くの世界選手権サーキットの平均速度)において、
リフト量はわずか1.6kgに抑えられています。
つまりこの速度では、空気がヘルメットを持ち上げようとする力が、
ヘルメット自体の重量(1,450g)とほぼ等しくなり、
互いに打ち消し合うことで、
Pista GP RRはライダーの頭上でニュートラルな重量状態を実現します。

しかし最も重要なのは、ヘルメット全体の形状です。
この形状により、ヘルメット下部での空気の滞留が抑えられ、
抗力も最小限に抑えられます。
ウェッジ形状のチンガードによって、
160km/h時でも抗力はわずか4kgに達するだけです。
さらに、乱流によって生じる変動、いわゆるボルテックス・シェディングも最小化されています。
この現象は、強いブレーキング時にライダーが起き上がり、
ヘルメットが完全に空気にさらされる際に特に厄介です。
Pista GP RRでは、チンガードとスポイラーの形状により、
顔への圧迫や変動が抑えられ、
頭部の安定性と視界が向上します。
その結果、快適性、集中力、パフォーマンスが高まり、
コーナー進入時を含め、周囲の状況により集中できるようになります。

プロテクションとパフォーマンスの統合効果

風洞実験は、ヘルメットの安定性を高めて快適性を向上させるだけにとどまりません。
ライダーの装備一式を最適に統合することで、
純粋なパフォーマンス、特に最高速の面でも効果が得られます。
この効果は、小排気量や中排気量のバイクで特に顕著です。

この点で重要なのが、スーツとヘルメットの組み合わせ、
特にヘルメット形状と背中のハンプが作り出すプロファイルです。
各種計測により、
空力効率を最大化するために同時開発されたAGV Pista GP RRと、
Dainese Mugello RR D-air®スーツを組み合わせることで、
他社製のヘルメットとスーツを着用した場合に比べ、
数km/h高い最高速に到達できることが確認されています。

この差は、特に小排気量マシンでは大きな意味を持ちます。
とりわけ、出力が制限され、
最高速もMotoGP™ほど高くないMoto3では顕著です。
MotoGP™では2023年に370km/hに達しましたが、
Moto3マシンは単気筒250ccエンジンで約60馬力、
最高速は240〜250km/hにとどまります。
だからこそ、あらゆる細部が重要になるのです。

Daineseでは、スーツとヘルメットの組み合わせは数あるソリューションの一つにすぎません。
さらに革新的な組み合わせとして、
スーツ内部に収まるよう設計されたINブーツとの統合もあります。
スーツ内に収まるブーツにDaineseの技術を適用することで、
突起のない滑らかな表面を持つ流線形のシルエットが実現され、
従来の外付けブーツよりも優れた空力性能が得られます。
このテーマについては、別の詳細記事で解説しています。

ライダー用プロテクションウェアの技術的進化は、
レーシングマシンの性能向上と歩調を合わせて進んでいます。
それは、先進素材の採用から、
エルゴノミクスや純粋な防護性能に至るまで、
あらゆる分野で新たな解決策を追求し、
頭から足先まで細部にこだわる、
妥協のない完成度への探求です。

それによって初めて、
世界選手権のサーキットを最高速で走るような極限状況でも、
一切の制約なく全力を発揮できる、
常に最先端の装備をライダーやエンスージアストに提供することができるのです。

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ダイネーゼAGVジャパン編集部

ダイネーゼAGVジャパン編集部は、イタリア発のモーターサイクルウェアブランド「Dainese(ダイネーゼ)」およびヘルメットブランド「AGV(エージーブイ)」の日本正規輸入元として、製品情報・アスリートのインタビュー・ブランドの今を発信する編集チーム。 ビギナーからエキスパートまで、ライダーの安全性を最優先にした情報提供を行っています。

2026年2月7日公開
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